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広島地方裁判所 昭和56年(行ウ)2号 判決

広島県竹原市忠海町五四〇五番地

原告

吉田徳成

右訴訟代理人弁護士

池田博英

広島県竹原市竹原町北堀一五四八番地の一七

被告

竹原税務署長

勝川信行

右指定代理人

菊池徹

右同

青山彰彦

右同

岡山昭陽

右同

井藤治幸

右同

戎本登

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和四五年分所得税について、被告が昭和四七年一一月一一日付けでした課税標準たる課税所得金額を一九三一万五〇〇〇円(昭和五五年一〇月二三日の審査裁決によって取消された後の金額)とする更正処分のうち六四九万七〇〇〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(確定申告)

原告は、別表(一)確定申告欄記載のとおり課税所得金額を五七万九〇〇〇円とする確定申告を行った。

2(更正処分等及び審査裁決)

(一)  被告は同表更正欄記載のとおり昭和四七年一一月一一日付けで、課税所得金額を三二四二万八〇〇〇円とする更正処分及びその決定額を四九八万一二〇〇円とする重加算税賦課決定処分をした。

(二)  これに対し原告は、同記載の経過のとおり不服申立てをし、その結果、昭和五五年一〇月二三日付けで課税所得金額を一九三一万五〇〇〇円及び重加算税賦課決定額を二六二万二三〇〇円とする一部取消しの審査裁決(以下同裁決により一部取消された後の右各処分を「本件更正処分」、「本件賦課決定処分」という。)がなされた。

3(本件更正処分等の違法性)

しかし、本件更正処分及び本件賦課決定処分には、以下のような違法事由がある。

(1) 本件更正処分には、原告の課税所得金額算定について誤りがある。

(2) 原告は課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装したことはない。

よって、原告は被告が原告に対してなした本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  認否

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3の事実中(1)、(2)の事実は否認し、その余は争う。

2  主張

(一) 本件更正処分について

本件更正処分は、原告の事業所及び雑所得の範囲内にあるから、適法である。

(1) 被告は、原告の昭和四五年分の事業所得金額の算定に当たり、実額による収支計算の可能な帳簿書類が存在しないため、いわゆる資産負債増減法により同年分の所得金額を算定した。

(2) 右事業所得金額の算定根拠は別表(二)のとおりである。そのうち借入金の内訳は同(三)の1ないし7であり、預り金の内訳は同(四)の1ないし4である。

(3) なお、原告の昭和四五年分の雑所得は五一万円である。

(二) 本件賦課決定処分について

原告は、万博事業の売上金額を圧縮するため、万博協会から売上金を預入すべき銀行の指定を受けながら、その売上金の一部を指定銀行以外の福徳相互銀行生野支店に預入し、さらに万博事業から生じた利益金額についてはその隠ぺいを図るため、右銀行の行員に依頼して、前沢外喜夫名義ほか二四口、総額一八九五万円の仮名定期預金を設定し、所得税の申告に当たっては、実際の所得金額を著しく下回る一〇八万六七〇〇円の所得金額を記載した確定申告書を被告に提出している。かかる原告の行為は、明らかに課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したものであるから、国税通則法六八条一項の規定に該当する。

三  被告の主張に対する認否

1  被告の主張(一)の事実中、同(1)の事実は認める。同(2)の事実のうち、別表(二)中、12(借入金)、15(預り金)、16(負債の部計)、17(差引増加額)の金額は否認し、その余は認め、別表(三)(借入金の内訳)中、1ないし7の金額は認めるが、8(吉田ミチ子)があるので、9(原告主張額計)となり、別表(四)(預り金の内訳)中、1ないし4の金額は認めるが、5(原告主張外商某)があるので6(原告主張額計)となる。同(3)の事実は認める。同(一)中その余は争う。

四  原告の反論

1  吉田ミチ子からの借入金

(一) 原告はその妻訴外吉田ミチ子(以下「ミチ子」という。)から昭和四四年一二月末日までに、二回又は三回にわたり合計四〇〇万円を借り受けた。

(二) 原告はミチ子からさらに昭和四五年三月末日までに六九六万円を借り受けた。

2  外商某からの預り金

原告は、昭和四五年に万国博覧会の会場で「廣島吉田屋」を経営していたが、外商某(住所・氏名不詳)の依頼により、その店頭で物品を販売することを許し、手数料を受領していた。さらにその後、「広島吉田屋」名称での場外売も認めて、その手数料も受領した。ところが、右場外売の売上金額(手数料に関連している)について右某と争いが生じたため、原告が右某に対して返済しなければならなかった売上金五〇〇万円を争いが解決するまで原告が預ることとした。そして、原告は友人の依頼で、右預り金五〇〇万円の中から割引債券四七一万九五〇〇円相当を購入した。従って、少なくとも四七一万九五〇〇円は預り金として負債に計上すべきである。

3  寄付金控除について

(一) 原告は、昭和四五年九月、地方公共団体である竹原市に対し、アイスクリーム三万個(仕入価額二〇〇万円)を寄附した。右アイスクリームは、万博会場のニュージーランド館で販売されていたものの売れ残りを万博協会事務局員の依頼により買い受けたものである。原告は、昭和四五年九月以後の日、神戸の保税倉庫に保管されていた右アイスクリームを受け取り、同倉庫の事務所で現金二〇〇万円を支払い、その後竹原市(保管場所今井冷蔵)に搬入した。

(二) 右アイスクリームの寄付は、所得税法(昭和四三年法律第二一号による改正後のもの)七八条(寄付金控除)の要件に該当するので同条の計算に従い、所得控除がなされるべきである。すなわち、総所得金額八二五万八七五七円(被告主張の総所得金額一九九三万八二五七円からミチ子からの借入金六九六万円及び外商某からの預り金四七一万九五〇〇円を控除した金額)の一五パーセントから一〇万円を控除した金額一一三万八八一三円が寄付金控除の金額となる。

4  結論

以上によれば、原告の昭和四五年分課税所得金額は、被告の主張する課税所得金額一九三一万五〇〇〇円からミチ子からの借入金六九六万円、外商某からの預り金四七一万九五〇〇円及び寄付金控除額一一三万八八一三円を控除した金額六四九万六六八七円であり、少なくとも六四九万七〇〇〇円を超えることはない。

五  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1の事実は否認する。

原告は、別件所得税法違反けん疑事件の調査において、広島国税局収税官吏から借入金はないかと質問を受けたにもかかわらず、ミチ子からの借入金については全く供述していない。また同女の四三年分の申告所得は五五万円であり、四四年及び四五年は申告がないことからみても、ミチ子が原告主張のごとき多額な金員を所持していたとは到底認めることができない。

2(一)  原告の反論2の事実のうち、原告が「広島吉田屋」を経営していた事実及び割引債券を四七一万九五〇〇円で購入した事実は認め、その余の事実は知らない。預り金として負債に計上すべきであるとの主張は争う。

(二)  原告は、別件事件の供述で「井上道夫」と称する者に対して三七〇万円、四〇〇万円及び二八六万円をいずれも小切手で支払ったとしているが、外商某に対する預り金や未払金があったとする供述は全くしていない。

(三)  また、別件事件における原告の検察官に対する昭和四八年一二月二一日付け供述調書によれば、原告は、住所氏名不詳の二人連れの男から預っていた場外売上金五〇〇万円の支払に充てるため、昭和四五年中に右割引債券を四七〇万円余で購入し、これを翌四六年になって売却して、その代金を同人らに支払った旨供述しながら、同昭和四九年三月七日付け供述調書では、四六年一〇月ころ右割引債券を売上金返済のかわりに渡したと供述し、その供述は一貫性を欠いている。

(四)  そしてまた、別件事件の証人青木頼夫(調査を担当した査察官)の証言によっても万博終了時原告から外商某に対する未払金等はなかったこと、本件割引債券は原告の友人との付き合い上購入したにすぎないものであることが窺われ、また、身元がはっきりしない外商某が原告に対する五〇〇万円もの多額な預り金の返還を求めないまま、万博から引き揚げて行くということは到底考えられない

(五)  さらに、原告は、右割引債券を昭和四六年一〇月六日に日本長期信用銀行大阪支店において四九一万七〇〇〇円で売却しているが、万博は昭和四五年九月一三日に終了しているのであって、約一年後の昭和四六年一〇月六日まで外商某が未精算の状態で放置していることは全く不合理極まりない。

3  原告の反論3(一)の事実は知らない。

仮に原告主張の事実が認められても、本件寄付金のように事業に関係のない支出金額は、当然に個人が負担すべきものとして店主勘定の借方(店主貸勘定)に加えられることになり、その結果支出した金額に相当する金額が必然的に総所得金額の増加額となる。

そうすると、寄付金の額二〇〇万円を加えると、総所得金額は二一九三万八二五七円、課税総所得金額は二一三一万五〇〇〇円となり、被告がした本件更正処分の課税総所得金額を上回ることとなるのでその範囲内でなされた本件更正処分は適法である。原告の反論3(二)は争う。

所得税法七八条一項に規定する寄付金控除を受けるためには、同法一二〇条三項一号、同法施行令二六二条一項五号、同法施行規則四七条一四号、同条の二第三項の規定により、確定申告書にその旨を記載するとともに、「特定寄付金の明細書」及び「特定寄付金を受領した者の受領した旨、その特定寄付金の額及び受領した年月日を証する書類等」(以下「寄付金の明細書及び証明書」という。)を添付することが要件となっている。

しかるに、原告の本件係争年分の所得税の確定申告書には寄付金控除を受ける旨の記載はなく、寄付金の明細書及び証明書も添付していない。

さらに、寄付金控除の手続要件が具備していないために、寄付金控除が受けられないこととなった場合においては、法定の申告期限(本件の場合は昭和四六年三月一五日)から一年以内に国税通則法二三条一項に定める更正の請求をすれば控除が受けられるところ、原告は右更正の請求をしていない。

4  原告の反論4は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分の違法性(請求原因3(1)、原告の反論1ないし3)の有無について以下判断する。

1  被告は、原告の昭和四五年分の事業所得金額の算定に当たり、実額による収支計算の可能な帳簿書類が存在しないため、いわゆる資産負債増減法により同年分の所得金額を算定したこと、右事業所得の算定根拠である別表(二)のうち12(借入金)、15(預り金)、16(負債の部計)、17(差引増加額)の金額を除いたその余の金額、右借入金の内訳である別表(三)のうち1ないし7の金額、右預り金の内訳である別表(四)のうち1ないし4の金額、原告の昭和四五年分の雑所得は五一万円であることは当事者間に争いがない。

2  請求原因3(1)、原告の反論1(ミチ子からの借入金)について

(一)  なるほど、証人吉田ミチ子の証言中には、同女の経営していたスタンド「いずみ」、小料理屋「旅路」の営業による所得が月々三〇万円前後あり、その売上金を名前は言えないが信用のおける某人に預け、その預けた金の中から原告へ同主張の金員を融資したものである旨の供述があり、また、原告本人尋問の結果中にもこれに沿う供述部分がある。

(二)  しかし、まず証人吉田ミチ子の証言の信用性について考えてみるに、原本の存在及び成立について争いのない乙第一号証、乙第二号証、成立に争いのない乙第三号証、乙第五ないし第一一号証、乙第一二号証の一、二、乙第一三ないし第一五号証、乙第一六号証の一ないし三、乙第一七号証の一ないし三、乙第一八号証、乙第一九号証の一ないし三、証人吉田ミチ子、同青木頼夫の各証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、証人吉田ミチ子の証言、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は借信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告とミチ子は昭和二七年ころ結婚し、広島県竹原市忠海町において米の販売業を営んでいたが、昭和三六年ころ大阪へ出て、その後ミチ子は大阪府布施市足代新町において小料理屋「旅路」、スタンド「いずみ」を開店し両店を経営した。しかし、両店舗はともに床面積四坪五合と狭く、昭和五〇年一月二〇日広島地方裁判所において行われた原告の所得税法違反被告事件の裁判においては、ミチ子は、昭和四四年当時右両店舗の売上げは食べていって従業員の給料、仕入れ代を払ったりするとほとんど何も残らないぐらいしかなかった旨証言している。

(2) ミチ子の所得税の確定申告における申告所得金額は、昭和四三年度はわずか五五万円、昭和四四年、四五年度は右申告が全くない。

(3) ミチ子は、三福信用組合本店から昭和四三年に吉田美智子名義で三六万円、昭和四四年に吉田三チ子名義で四〇万円を借入れており、更に三福信用組合本店の吉田美智子名義の定期積立預金の中には昭和四五年に約定通り積立てがなされていないものがある。

(4) ミチ子は、その本件証言で、「旅路」、「いずみ」の営業による売上げ金を名前は言えないが信用のおける人に預けたりしていたと述べているが、ミチ子は、原告の所得税法違反被告事件の裁判においては、原告へ融資した金員の保管状況について、全て自宅に現金で所持していたものである旨証言しており、金銭の保管方法に関するミチ子の供述に変遷がある。

(5) 原告の昭和四五年分の所得税についての調査を担当した広島国税局査察官青木頼夫は、右調査の関係で昭和四七年頃ミチ子から事情を聴取しているか、その際、ミチ子は、店はやっているけれども金もないし、原告に対し資金を出したことも全くない旨答えている。

右各認定した事実からしてみるに、ミチ子が昭和四四、五年当時合計一〇九六万円もの多額の金員を融資することができる程の資力を有していたとは到底認められないうえ、ミチ子が原告へ融資したとする金員の保管状況についての供述も、曖昧で、不合理でもあり、更に、国税局査察官による調査当時には、ミチ子は原告主張のごとき融資の事実を否定していることなどからして、結局証人吉田ミチ子の証言中前記原告の主張に沿う部分は信用できないものというべきである。

(三)  次に、前記原告本人尋問の結果の信用性について考えてみるに、前掲乙第五ないし第一一号証、乙第一二号証の一、二、乙第一三号証、乙第一四号証、証人青木頼夫の証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると以下の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

(1) 原告は、同人の所得税法違反けん疑事件の捜査において広島国税局係官から長期間にわたり多数回取調を受け右係官の作成した質問てん末書に署名押印しているが、それら合計七通の質問てん末書では、昭和四四、五年当時の借入金についてたびたび質問を受けているのにミチ子からの借入金があるとの応答は全くなされておらず、右取調係官青木頼夫も、その証言で、当時原告がミチ子から借入金があるとの供述は全く受けていない旨述べている。

(2) 原告は、所得税法違反被疑事件の捜査において検察官から取調を受け、その際二通の供述調書が作成されており、そのうち昭和四八年一二月二一日付の供述調書によれば、国税局査察官の調査の際原告が主張しても取り上げてもらえなかったこととして右主張が数点記載されているが、ミチ子からの借入金があるとの主張は記載されていない。

(3) 原告本人尋問の結果では、原告はミチ子から昭和四四年に万国博覧会において店を開店する準備資金として四〇〇万円を借り受けたと述べているが、原告は、同人の所得税法違反けん疑事件の捜査において、万国博覧会において店を開店するのに必要な資金(契約納付金、保証金、施設利用料等)の出所について広島国税局係官から質問を受けたのに対し、具体的に個人名、銀行名、金額などをあげて右状況を詳しく説明しており、それによればミチ子から多額の借金をする必要はないこととなる。

右各認定した事実に、前記証人吉田ミチ子の証言の信用性につき認定説示したところを併わせ勘案すると、原告本人尋問の結果中原告のミチ子からの借入金に関する原告の主張に沿う供述部分はにわかに信用しがたいものといわざるを得ない。

(四)  前記ミチ子からの借入金に関する原告の主張事実につき、その他これを認めるに足りる証拠はない。のみならず、むしろ、前記各認定説示したところからすると、右借入金はなかったものと推知され、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  請求原因3(1)、原告の反論2(外商某からの預り金)について

(一)  原告が「広島吉田屋」を経営していたこと、割引債券を四七一万九五〇〇円で購入したことは当事者間に争いがない。

(二)  そして、原告本人尋問の結果では、原告は、昭和四五年三月から万国博覧会の会場において「広島吉田屋」を経営していたが、その後外商某の依頼によりその周辺で物品を販売することを許し、そのかわりに外商某の売上金を原告が一旦預り、その中から一五パーセントか二〇パーセントの金銭を口銭として原告が取得しその残余の金銭を外商某に支払っていたところ、同年八月ころ両者間で外商某の売上金額について争いが生じたため、原告が売上金から口銭を控除した五〇〇万円を少しこえる金額を争いが解決するまで原告が預った旨、原告は右預り金の中から割引債券四七一万九五〇〇円相当を購入したが、その後両者間の争いが解決し昭和四六年の秋から暮れにかけて四九一万七〇〇〇円で売却し、その中から約四七〇万円を外商某に対して支払った旨、述べている。そして更に、前掲乙第二号証によれば、万国博覧会が終了したのは昭和四五年九月一三日であること、成立について争いのない乙第二〇号証の一ないし三によれば、原告は右割引債券を昭和四六年一〇月六日に四九一万七〇〇〇円で売却していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  しかし、右原告本人尋問の結果では、外商某なるものにつきその住所、氏名、呼び名など一切を全く忘れてしまった旨、同人の連絡先もわからず、必要なときは同人が店へ来ていたなど極めて不明確な供述をしており、また、前記原告の供述によると、外商某が原告との間で売上金について争いが生じたのに五〇〇万円もの多額の金員を原告に預け、その返還を受けないまま万博会場から引上げて一年以上もの期間が経過しているというのも、不合理、不自然ともいえる。

(四)  そして、前掲乙第五ないし第一一号証、乙第一二号証の一、二、証人青木頼夫の証言によれば、原告は、同人の所得税法違反けん疑事件における広島国税局収税官吏の取調に対し、外商某からの預り金があるとの供述は全くなく、かえって割引債券も友人に頼まれて買ったものである旨答えていることがうかがわれる。

(五)  そしてなお、前掲乙第一三号証、乙第一四号証によれば、原告は、同人の所得税法違反被疑事件の捜査において検察官に対し、住所氏名不詳の二人の男から売上金約五〇〇万円を預り、その預り金の中から割引債券を購入したと供述しているが、昭和四八年一二月二一日付の右供述調書(乙第一三号証)では、その割引債券を売却してその代金で二人の男に右預り金を払った旨述べているのに対し、昭和四九年三月七日付の右供述調書(乙第一四号証)では、右割引債券自体を売上金の返済のかわりに渡した旨述べており、その供述に変遷のあることがうかがわれる。

(六)  以上各認定説示したところから考えてみるに、前記原告本人尋問の結果及び原告の検察官に対する供述中、外商某からの預り金に関する原告の主張に沿う供述部分は、にわかに信用しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠もない。むしろ、右各認定説示したところからすると、右原告主張のような事実はなかったものと推知され、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  請求原因3(1)、原告の反論3(寄付金控除)について

(一)  原告主張の竹原市に対するアイスクリーム三万個の寄付は、弁論の全趣旨に照らし、原告の昭和四五年分の事業所得及び雑所得の収入に関係のない支出であって、右必要経費に該当しないものであることが明らかである。

(二)  そして、所得税法七八条一項に規定する寄付金控除を受けるためには、同法一二〇条一項一号一一号三項一号、同法施行令二六二条一項六号、同法施行規則四七条一五号、同条の二第三項の規定により、当該年分の所得税の確定申告書を提出する場合において、同申告書にその旨を記載するとともに寄付金の明細書及び証明書を添付することが要件となっているところ、成立に争いのない乙第二一号証、証人青木頼夫の証言、弁論の全趣旨によれば、原告の昭和四五年分の所得税の確定申告書には寄付金控除を受ける旨の記載はなく、寄付金の明細書及び証明書も添付していないことが認められ、これに反する証拠はない。

なお、寄付金控除の手続要件を具備しなかったため、寄付金控除が受けられないこととなった場合においては、法定の申告期限から一年以内に国税通則法二三条一項に定める更正の請求をすれば控除が受けられることが考えられるが、証人青木頼夫の証言、弁論の全趣旨によれば原告は右更正の請求もしていないことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  そうだとすると、右認定説示したところからして、寄付金控除に関する原告の主張は、更にその余の点について判断するまでもなく理由がないものといえる。

5  以上の認定等の事実及び説示したところからして、本件更正処分には、原告の課税所得金額算定について誤りはなく、その他の違法事由も証拠上認められず、本件更正処分は適法なものと認められる。

三  次に、本件賦課決定処分の違法性(請求原因3(2))の有無について以下判断する。

1  前掲乙第一ないし第三号証、乙第五ないし第一一号証、乙第一二号証の一、二、乙第二一号証、成立に争いのない乙第二二号証、乙第二三号証、証人青木頼夫の証言、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告は万博会場において「R二七」「西口売店」という二つの店舗を出せることとなり、これで一儲けしようと考え、万博事業の売上金額を過少化するため、万博協会から売上金を預入すべき銀行の指定を受けながら、その指定銀行であった住友銀行本店(「R二七」についての指定銀行)、三和銀行本店(「西口売店」についての指定銀行)の各万博出出張所には合計五四九八万四三五六円を預入したのみで、万博協会の指定銀行外である福徳相互銀行生野支店の仮名の普通預金及び原告名義の当座預金、普通預金に売上金合計七八七八万四三〇四円を預入し、更に万博終了後である昭和四五年一〇月二六日から同年一二月二九日までに同銀行同支店に前沢外喜夫ほか二四口、総額一一八九五万円の仮名定期預金を設定した。

(二)  そして、原告はこれらの行為に基づき、昭和四五年分の所得税の確定申告に当り、その事業所得金額として、実際の所得金額を著しく下回る一〇八万六七〇〇円と記載した右確定申告書を提出した。

2  右認定した事実からしてみると、原告は、右仮名預金等により原告の所得税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき右納税申告書を提出したものと認められ、これは国税通則法六八条一項の規定に該当する。

そうすると、右同条に基づきなされた本件賦課決定処分はなんら違法とはいえず、適法なものといえる。

四  以上によると、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺伸平 裁判官 窪木稔 裁判官吉岡浩は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 渡辺伸平)

別表(一)

昭和四五年分 課税経過表

〈省略〉

別表(二)

昭和四五年分 事業所得金額の算定根拠

〈省略〉

別表(三)

借入金の内訳

〈省略〉

別表(四)

預り金の内訳

〈省略〉

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